〇イヌリンの整腸作用
①標題:イヌリンの整腸作用に関する研究レビュー
②目的:イヌリンを含む食品を健康成人が摂取することで、ビフィズス菌を増やし、腸内フローラを整え、排便回数、排便量を増やすことで排便習慣を良好にする整腸作用を有するかについて明らかにする。
③背景:イヌリン摂取によるビフィズス菌増加作用ならびに排便習慣改善作用は多くの研究で検討されているが、それらを総体的に評価した研究レビューは行われていない。
④レビュー対象とした研究の特性:健康成人(妊産婦、授乳婦は除く)が、イヌリンを含む食品を摂取した時の糞便中ビフィズス菌数、排便回数および排便量について、プラセボ食品を摂取した時と比較した研究文献を網羅的に集めた。日本語、英語文献データベースを用いて、2022年9月13日に対象期間を設定せず文献を検索した。そこから得た文献の内容を精査し、対象となる文献22報が抽出された。それぞれの研究結果をアウトカム別に統合し、定性的ならびにメタアナリシスにて評価した。
⑤主な結果:「糞便中ビフィズス菌数」に関する定性評価では16報中10報で有意な増加を認め、肯定的な試験数が否定的な試験数を上回っていた。9報を対象としてメタアナリシスを行ったところ、有意に増加することが示された。「排便回数」を検討した11報の結果を統合したところ、イヌリンを含む食品の摂取により有意な増加が認められた。「排便量」を検討した8報の結果を統合したところ、イヌリンを含む食品の摂取により有意な増加が認められた。
⑥科学的根拠の質:抽出された論文の文献の質を確認したところ、割り付けの隠蔵についての記載がない、男性または女性に限定した試験など認めたが、大きな問題は認めず、バイアスリスクは低く、科学的根拠の質は確保されていると評価した。本研究レビューの結果から、イヌリンの腸内フローラならびに排便習慣の改善作用には科学的根拠があると判断した。
〇イヌリンの血中中性脂肪を下げる機能について
①標題:イヌリンの血中中性脂肪低下作用に関する研究レビュー
②目的:「イヌリンを含む食品を、疾病に罹患していない者または血中中性脂肪値がやや高めの者が摂取することで、血中中性脂肪値を下げるか」を明らかにする。
③背景:イヌリンの中性脂肪低下作用については多数論文化されており、メタ解析が実施され血中中性脂肪値の有意な減少が報告されているが、このメタ解析では疾病に罹患している者を対象とした試験などが含まれており、機能性表示食品としての研究レビューとしては適格ではないと判断し、新たに研究レビューを実施した。
④レビュー対象とした研究の特性:検索対象期間は制限せず、言語は英語、日本語とした文献検索を2022年9月13日に実施した。対象集団は疾病に罹患していない者(未成年者、妊産婦、授乳婦は除く)または血中中性脂肪値がやや高め(血中中性脂肪値150~199 mg/dL)の者とし、イヌリンを含む食品の摂取による血中中性脂肪値の変化を検討した介入試験を対象にして、研究レビューを実施した。加えて正常血中中性脂肪値を示す被験者のみを対象に試験を実施した文献を別途定性評価した。
⑤主な結果:抽出された6報の文献を用いて定性的レビューを行った結果、6報中4報の論文が肯定的であった。その際のイヌリン摂取量は8.1~19.2 g/日であった。また正常な血中中性脂肪値を示す被験者のみを対象とした文献は6報中4報で、そのうち2報で有意な血中中性脂肪低下作用を示したが、その他の2報では血中中性脂肪値の低下は認められなかった。更に、低下作用の認められた2報の論文においても、その低下度は小さく、正常範囲内に維持されていた。このことより、正常血中中性脂肪値を示す者がイヌリンを摂食した場合、血中中性脂肪値は正常範囲内に維持されるものと判断された。
⑥科学的根拠の質:研究デザインの質を評価したところ、6報中4報は研究の質が最も高いレベル(バイアスリスクが低い)と判断した。研究の限界に関して、評価した6文献はいずれも外国人を対象としていることから、日本人への外挿性が懸念されたが、日本人の糖尿病患者を対象にイヌリンを摂取させた試験においても、本研究レビュー結果とほぼ同様な結果が認められることより、日本人への外挿性については問題ないと考えられた。これらのことから、本研究レビューの科学的根拠の質は確保されていると判断した。以上、本研究レビューの結果から、イヌリンの血中中性脂肪低下作用には科学的根拠があると判断した。
〇イヌリンの食後血糖の上昇を抑える機能
①標題:イヌリンの食後血糖値上昇抑制作用に関する研究レビュー
②目的:「イヌリンを含む食品を、疾病に罹患していない者または空腹時血糖値が境界型の者が摂取することで、食後血糖値の上昇をゆるやかにするか」を明らかにする。
③背景:イヌリンの単回経口摂取による食後血糖値の上昇抑制作用については多数、論文化されているもののシステマティックレビューの報告は確認できなかった。そこで、今回「イヌリンを含む食品を疾病に罹患していない者または空腹時血糖値が境界型の者が単回経口摂取することにより食後血糖値の上昇をゆるやかにするか」を明らかにすることを目的とした研究レビューを実施した。
④レビュー対象とした研究の特性:検索対象期間は制限せず、言語は英語および日本語とした文献検索を2022年9月13日に実施した。対象集団は疾病に罹患していない者(未成年者、妊産婦、授乳婦は除く)または空腹時血糖値が境界型(空腹時血糖値110~125 mg/dL)の者とし、イヌリンを含む食品の単回経口摂取による食後血糖値の上昇抑制作用を検討した介入試験を対象にして、研究レビューを実施した。
⑤主な結果:抽出された4報の文献を用いて定性的レビューを行った結果、4報中3報の論文が肯定的であった。その際のイヌリン摂取量は5.2~10.8 gであった。また、これら4報は正常血糖値者を対象とした試験で、上記食後血糖上昇抑制効果は正常血糖値範囲内であったことより、血糖値正常者がイヌリンを摂取した場合には血糖値は正常範囲内に維持されるものと考えられる。
⑥科学的根拠の質:研究デザインの質を評価したところ、4報全てが研究の質が最も高いレベル(バイアスリスクが低い)と判断した。研究の限界に関しては、評価した4報のいずれも小規模の試験であることや出版バイアスなどについて研究の限界が考えられるものの、その他の要因を含め、重大な影響ではないと判断した。これらのことから、本研究レビューの科学的根拠の質は確保されていると判断した。以上、本研究レビューの結果から、イヌリンの食後血糖値上昇抑制作用には科学的根拠があると判断した。
〇イヌリンの肌の保湿力(バリア機能)を高め、弾力が維持される機能
①標題:機能性関与成分イヌリンによる肌の保湿力(バリア機能)を高め、肌の弾力を維持する機能性に関する研究レビュー
②目的:健常成人がイヌリンを含む食品を摂取することによる肌の保湿力(バリア機能)、肌の弾力に対する効果を検証するため、本研究レビューを実施した。
③背景:これまでに、整腸作用を持つ成分の摂取によって腸内環境が改善され、肌の状態が改善される事例が報告されている。そこで、健常成人がイヌリンを含む食品を摂取した場合、肌の保湿力(バリア機能)を高め、肌の弾力を維持する機能性を持つかについて検討を行った。
④研究レビュー対象とした研究の特性:2022年6月23日に、それまでに公表された論文を対象に、健常成人を研究対象とした試験でイヌリンの摂取による経表皮水分蒸散量(TEWL)の変動、弾力の変動を評価したものについて検討した。最終的に1報の論文を採用し評価を行った。
⑤主な結果:一日当たり4.5 gのイヌリンを含む食品を摂取した結果、対照食品摂取時と比較して、健常成人において、肌の保湿力(バリア機能)を高め、肌の弾力が維持される機能が認められた。
⑥科学的根拠の質:研究の限界としては、有効性が示されなかった研究が公表されていない可能性があげられるが、問題となるような大きなバイアスは認められず、科学的根拠の質は確保されていると評価した。本研究レビューの結果からイヌリンの肌の保湿力(バリア機能)を高め、弾力が維持される作用には科学的根拠があると判断した。 |