【標題】
難消化性デキストリンを用いた健常成人に対する糖の吸収抑制作用、脂肪の吸収抑制作用、及び整腸作用(便通改善作用)に関するシステマティックレビュー(メタアナリシス)
【目的】
研究レビューにより、以下の3つについて評価した。
1)健常成人に対して難消化性デキストリンの単回摂取がプラセボの単回摂取と比較して、糖の吸収抑制作用を示すかどうか
2)健常成人に対して難消化性デキストリンの単回摂取がプラセボの単回摂取と比較して、脂肪の吸収抑制作用を示すかどうか
3)健常成人あるいは便秘傾向の成人に対して難消化性デキストリンを摂取することにより、整腸作用(便通改善作用)が見られるか
【背景】
近年、メタボリックシンドロームを初めとした生活習慣病の患者数が増加している。その中でも、糖尿病患者数の増加は深刻な問題のひとつになっており、食事療法として食物繊維を摂取することが、2型糖尿病の発症リスクを低減させることが報告されている。これは、食物繊維が有する血糖値調節効果によるものと考えられる。また、脂質異常症の1つとして食後に血中中性脂肪値の高い状態が長時間継続する食後高脂血症が、動脈硬化症や冠動脈疾患の発症を早めるリスク因子であることが明らかとなってきており、脂肪の吸収を抑制し食後血中中性脂肪値の上昇を抑制する食品が注目されている。
調査報告によると、多くの日本人において食物繊維の摂取不足が推測されている。難消化性デキストリンは、トウモロコシでん粉に由来する水溶性食物繊維の一種である。難消化性デキストリンには、糖の吸収を抑制し食後血糖値の上昇抑制作用を有すること、脂肪の吸収を抑制し食後血中中性脂肪値の上昇抑制作用を有すること、便通および便性改善作用を持つことが多数報告されている。
そこで本研究レビューでは、難消化性デキストリンの糖の吸収抑制作用、脂肪の吸収抑制作用、及び整腸作用(便通改善作用)に関する検証を実施した。
【レビュー対象とした研究の特性】
本研究のデザインは、メタアナリシスを含む研究レビューである。以下個別に示す電子データベースを使用し、難消化性デキストリンによる糖の吸収抑制作用、中性脂肪の吸収抑制作用、及び整腸作用(便通改善作用)についてランダム化比較試験(RCT)によって検証されている文献を収集・評価した。
1)糖の吸収抑制作用
PubMed、CENTRAL、医中誌Web、J-GLOBAL の4つの電子データベースを使用し、空腹時血糖値が126 mg/dL未満の成人を対象に難消化性デキストリンを用いて糖の吸収抑制について調査したランダム化比較試験(RCT)を収集した。各RCT論文のバイアスリスク、非直接性、非一貫性、不精確から質の評価を行い、「血糖濃度曲線下面積(AUC0-2hr)」を評価指標としてメタアナリシスを実施した。
2)脂肪の吸収抑制作用
PubMed、CENTRAL、医中誌Web、J-GLOBAL の4つの電子データベースを使用し、空腹時血中中性脂肪値が200 mg/dL未満の成人を対象に難消化性デキストリンを用いて脂肪の吸収抑制について調査したランダム化比較試験(RCT)を収集した。各RCT論文のバイアスリスク、非直接性、非一貫性、不精確から質の評価を行い、「血中中性脂肪濃度曲線下面積(AUC0-6hr)」を評価指標としてメタアナリシスを実施し、介入群と対照群の差のデータを統合した。なお、特定保健用食品の試験方法として記載された範囲内で軽症者等が含まれたデータを使用していたため、健常成人(空腹時血中中性脂肪値150 mg/dL未満)のみを対象とした評価を実施した。
3)整腸作用(便通改善作用)
PubMed、Cochrane Library、医中誌Web、CiNii Articlesの4つの電子データベースを使用し、健常成人あるいは便秘傾向の成人を対象に難消化性デキストリンを用いて整腸作用について調査したランダム化比較試験(RCT)を収集した。各RCT論文の質の評価を行い、2つの評価項目「排便回数」「排便量」について、難消化性デキストリン摂取群と対照群の差のデータを統合した。統合の手法は、Random effect modelであるDerSimonian-Laired法を用いた。
【主な結果】
1)糖の吸収抑制作用
メタアナリシスの結果、難消化性デキストリン4.4~9.8 gを単回摂取することによって、対照群と比較して介入群が血糖濃度曲線下面積(AUC0-2hr)を有意に低下させることが確認された。したがって、難消化性デキストリン(食物繊維)を単回摂取することによって、糖の吸収抑制作用が期待できることが示された。
2)脂肪の吸収抑制作用
メタアナリシスによってデータを統合し統計解析した結果、難消化性デキストリン5~9 gを単回摂取することによって、対照群と比較して介入群が血中中性脂肪濃度曲線下面積(AUC0-6hr)を有意に低下させることが確認された。したがって、難消化性デキストリン(食物繊維)を単回摂取することによって、脂肪の吸収抑制作用が期待できることが示された。
3)整腸作用(便通改善作用)
統計解析の結果、「排便回数」「排便量」において、対照群と比較して難消化性デキストリン摂取群は有意な便通改善作用が認められた。さらに、難消化性デキストリン(食物繊維として)摂取量の中央値は5 gであった。したがって、難消化性デキストリン(食物繊維として)5 gを摂取することによって、整腸作用(便通改善作用)が期待できることが示された。
【科学的根拠の質】
本研究レビューは、事前に実施計画書を作成し、計画書通りに実施した。糖の吸収抑制作用について24報、中性脂肪の吸収抑制作用について9報、及び整腸作用(便通改善作用)について26報のRCT論文を検証した結果、いずれの作用についても期待できることが示されていた。肯定的な結果よりも否定的な結果が公表されにくいという出版バイアスの存在も否定できなかったが、結果への影響は小さいと判断され、科学的根拠は確保されていると評価した。 |