機能性 |
【標題】本わさび成分6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート含有食品による脳機能改善作用
【目的】運動習慣のない健康な中年男女に対し、本わさび成分6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6-MSITC)含有食品を摂取させ、プラセボ群と比較することで6-MSITCが脳機能に与える影響を評価した。
【背景】本わさびは日本原産の植物で、飛鳥時代より薬草として用いられてきた記録がある。近年になり、本わさびに含まれている6-MSITCに、神経細胞の保護効果や伸長作用が報告され、動物試験でもアルツハイマー病、パーキンソン病のモデルマウスで症状の改善効果が報告されている1,2)。そこで、臨床試験において人でも効果がみられるか検証した。今回の試験では、運動習慣は脳機能を高めることが報告されていることから3,4)、運動習慣のない対象者にて解析を行った。
【方法】国民健康・栄養調査の運動習慣者の定義5)に準じて、週2回以上、1回30分以上の定期的な運動をしている者を「運動習慣あり」、そうでない者を「運動習慣なし」、と定義して、「運動習慣なし」の被験者層37名(プラセボ群18名、アクティブ群19名)を対象とした解析を行った。アクティブ群19名には、本わさび抽出物をハードカプセルに100㎎充填したものを8週間毎日1粒、プラセボ群はシクロデキストリンを充填したハードカプセルを摂取させた。脳機能の評価には、認知症の検査でも用いられているStroop試験を用いた。
【主な結果】Stroop試験のステップ1、4の「達成数」、「正答数」について、8週目の変化量で、ワサビスルフィニルGold群がプラセボ群と比べて有意な改善が見られた。本研究で用いた新Stroop検査II 6)は、注意機能・情報処理速度の両面を測定できると考えられており、Stroop試験のステップ1、4の「達成数」、「正答数」の改善は、日常的な運動習慣がなく物忘れを自覚する中高齢男女にワサビスルフィニルGOLDを摂取させると、認知機能の一部である識別・処理能力(注意機能)が向上する可能性を示唆する。
また、6-MSITCの作用機序については、未解明な部分が多いが、活性酸素の産生抑制による抗酸化作用や抗炎症作用を持つとされ7)、また抗血小板凝集作用、血流や血管などの血液循環を改善なども報告されており8)、これらの作用が細胞ダメージを抑制することで、中枢神経系の機能改善へ寄与している可能性が考えられる。抗血小板凝集作用としては、ヒト血小板を用いて検討し、ワサビスルフィニルGoldに含まれる6-MSITCがアスピリンと比較して20倍程度強い凝集阻害活性を示すことが報告されており、血流に対するわさび成分の有効性に関しては、ヒトに5 gの本ワサビを摂取させた結果、100 μLの血液が流れるのに要した時間が短縮し、血流改善効果がみられたことが報告されている8)。これらの知見から、ワサビスルフィニルGoldを摂取することで、抗血小板凝集作用による血流の改善に伴い、脳での低酸素や虚血状態が減ること、活性酸素の産生抑制による抗酸化作用により活性酸素などに起因する細胞ダメージの抑制効果がもたらされ、認知機能の改善に寄与した可能性が考えられる。
【科学的根拠の質】今回の臨床試験は、ヒトでの試験手法として質が高いとされている「ランダム化二重盲検比較試験」で行われた結果であることから、6-MSITCを含む食品の摂取による脳機能改善作用の信頼性は高く、科学的根拠の質は十分であると判断した。
【参考文献】
1) Morroni F, Sita G, Graziosi A, Turrini E, Fimognari C, Tarozzi A and Hrelia P, Protective Effects of 6-(Methylsulfinyl)hexyl Isothiocyanate on A 1-42-Induced Cognitive Deficit, Oxidative Stress, Inflammation, and Apoptosis in Mice. Int. J. Mol. Sci. 19,2083-2102(2018)
2) Morroni F, Sita G, Tarozzi A, Cantelli-Forti G, Hrelia P, Neuroprotection by 6-(methylsulfinyl)hexyl isothiocyanate in a 6-hydroxydopamine mouse model of Parkinson’s disease. Brain Reserch: 1589,93-104(2014)
3) 安永明智, 木村憲, 高齢者の認知機能と運動・身体活動の関係, 第25回健康医科学研究助成論文集, 129-136(2010)
4) Yanagisawa H. et al., Acute moderate exercise elicits increased dorsolateral prefrontalactivation and improves cognitive performance with Stroop test. Neuroimage, 50, 1702-1710(2010)
5) 平成25 年国民健康・栄養調査結果の概要-厚生労働省
6) 箱田裕司, 渡辺めぐみ, 新ストループ検査II, 株式会社トーヨーフィジカル
7) Yamada-Kato T, Okunishi I, Fukamatsu Y and Yoshida Y, Inhibitory Effects of 6-Methylsulfinylhexyl Isothiocyanate on Superoxide Anion Generation from Differentiated HL-60 Human Promyelocytic Leukemia Cells. Food Science and Technology Research, 23, 343-348(2017)
8) 木苗直秀, 古郡三千代, 小嶋操, ワサビのすべて, 学会出版センター(2006) |