【標題】
難消化性デキストリによる、整腸作用(便通改善作用)、食後血糖値の上昇抑制作用、食後血中中性脂肪値の上昇抑制作用について
【目的】
本研究の目的は、難消化性デキストリンを摂取することにより、1)健常成人あるいは便秘傾向の成人に対して整腸作用(便通改善作用)が見られるのか、2)健常成人(空腹時血糖値126mg/dL未満)に対して食後血糖値の上昇抑制作用が見られるのか、3)空腹時血中中性脂肪値が200mg/dL未満の成人(空腹時血中中性脂肪値150mg/dL未満の健常成人および空腹時血中中性脂肪値150~199mg/dL未満の軽症者)に対して食後血中中性脂肪値の上昇抑制作用が見られるのかを確認することである。
【背景】
現在、食生活の欧米化や慢性的な運動不足などにより、我が国におけるメタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病の患者数が増加している。食生活を見直すことが注目視されている中で、食物繊維が糖尿病、肥満といった疾患や生活習慣病に対する予防効果があると言われている。
厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、食物繊維の摂取基準は18歳以上の男女において、目標量が男性19~20g/日、女性17~18g/日と設定されているが、厚生労働省「平成24年国民健康・栄養調査報告」によると、20歳以上の1日当たりの食物繊維摂取量は平均14.8gとされており、食物繊維の摂取不足が推測される。
水溶性食物繊維の一種である難消化性デキストリンは、トウモロコシでん粉から作られており、便通改善作用、食後血糖値の上昇抑制作用、食後血中中性脂肪値の上昇抑制作用を有することが報告されている。
そこで今回、難消化性デキストリンの整腸作用(便通改善作用)、食後血糖値の上昇抑制作用、食後血中中性脂肪値の上昇抑制作用に関するシステマティックレビュー(メタアナリシス)を実施した。
1)整腸作用(便通改善作用)
【レビュー対象とした研究の特性】
国内外の複数のデータベースを用いて関連論文の検索を行ったところ、採用基準に従い26報が採用された。採用された論文はすべて日本国内で実施され、健常成人および便秘傾向の者を対象としていた。
【主な結果】
本システマティックレビューでは、「排便回数」および「排便量」の2つの項目において対照群と比較し、難消化性デキストリン摂取群が有意に整腸作用(便通改善作用)を示すことが認められた。
本研究における難消化性デキストリン(食物繊維として)の1日摂取量は3.8~7.7gであり、用量依存性が見られるが、いずれの量においても有意差が認められた。これらのことから、整腸作用が期待できる1日あたりの推奨摂取目安量は、難消化性デキストリン(食物繊維として)5gが適切と評価した。
2)食後血糖値上昇抑制作用
【レビュー対象とした研究の特性】
国内外の複数のデータベースを用いて関連論文の検索を行ったところ、採用基準に従い43報が採用された。採用された論文はすべて日本国内で実施され、空腹時血糖値が126mg/dL未満の健常成人を対象としていた。
【主な結果】
本システマティックレビューでは、「食後血糖値30,60分」および「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」の3つの項目において対照群と比較し、難消化性デキストリン摂取群が有意に食後血糖値を低下させることが認められた。
本研究における難消化性デキストリン(食物繊維として)の1回摂取量は4~16gであり、用量依存性が見られるが、いずれの量においても有意差が認められた。これらのことから、食後血糖値の上昇抑制作用が期待できる推奨1回摂取目安量は、難消化性デキストリン(食物繊維として)5gが適切と評価した。
3)食後血中中性脂肪上昇抑制作用
【レビュー対象とした研究の特性】
国内外の複数のデータベースを用いて関連論文の検索を行ったところ、採用基準に従い9報が採用された。採用された論文はすべて日本国内で実施され、空腹時血中中性脂肪値200mg/dL未満の成人を対象としていた。
【主な結果】
本システマティックレビューでは、「食後血中中性脂肪値(2,3,4時間)」および「食後血中中性脂肪値の濃度曲線下面積(AUC0-6h)」とそれぞれ4つの変化量(⊿値)の計8つの項目において対照群と比較し、難消化性デキストリン摂取群が有意に食後血中中性脂肪値を低下させることが認められた。また、採用論文9報全てに空腹時血中中性脂肪値が150~199mg/dLの者が含まれていたため、論文1報について健常成人(空腹時血中中性脂肪値 150mg/dL未満)のみで再度解析を行い、別途評価を行った。その結果、難消化性デキストリン摂取群は対照群と比較して食後1、2、3時間の血中中性脂肪値の実測値および変化量が有意に低値を示した。また、食後血中中性脂肪値の濃度曲線下面積(AUC0-6h)においても有意差が認められた。したがって、健常成人においても本システマティックレビューの結果に肯定的であったことから、科学的根拠があると判断した。
本研究における難消化性デキストリン(食物繊維として)の1回摂取量は5~9gであり、ほとんどが5gの論文であることから、推奨1回摂取目安量は5gが適切と評価した。
【科学的根拠の質】
難消化性デキストリン(食物繊維として)5g/日を食事と共に摂取することで、整腸作用(便通改善作用)、食後血糖値上昇抑制作用、食後血中中性脂肪上昇抑制作用を有することが示唆された。
ただし、今後の研究によっては、システマティックレビューの結果が変わる可能性があるため、継続した調査が必要である。また、食事療法だけでなく、運動療法、その他生活習慣などとの交絡因子の影響について、さらなる研究が必要と考えられる。
(構造化抄録) |