①標題
難消化性デキストリンを用いた健常成人に対する食後血糖の上昇抑制作用に関するシステマティックレビュー(メタアナリシス)
②目的
本研究の目的は、健常成人もしくは境界域血糖値の成人に対して難消化性デキストリンを摂取することにより、食後血糖値の上昇抑制作用が見られるかを確認することである。
③背景
現在、食生活の欧米化や慢性的な運動不足などにより、我が国におけるメタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病の患者数が増加している。その中でも、糖尿病患者数の増加は、超高齢社会を迎えた日本において極めて深刻な問題の一つとなっている。
血糖値等の代謝系健診項目に異常があった者は、43%が糖尿病に罹患し、さらには「異常なし」の人に比べて10年後の医療費が約1.7倍かかるという調査結果があり1)、経済的な側面から見ても糖尿病を罹患することによる影響は大きい。糖尿病の治療方法としては、食事療法、運動療法、薬物療法が一般的であり、食事療法は、血糖値管理による症状の安定化、合併症の予防を目標として実施されている。糖尿病に罹患しないためには、食事療法などにより血糖値をコントロールすることが非常に重要であるが、特に、食後血糖値は糖尿病に関する指標として注目されている。日中の食後血糖値が管理されなくなると、夜間空腹時の血糖値が段階的に悪化し、糖尿病が増悪する2)という調査結果があることからもわかるように、食後血糖値の是正は意義がある。中でも食事療法では、食物繊維の摂取による2型糖尿病の発症リスクの改善効果が報告されており3)、食物繊維が有する血糖値調節効果が期待されている。
そこで今回、難消化性デキストリンの食後血糖値の上昇抑制作用に関するシステマティックレビュー(メタアナリシス)を実施した。
④レビュー対象とした研究の特性
論文の検索日:医中誌 Web 2014年12月25日
PubMed 2015年1月5日
Cochrane Library 2015年1月5日
CiNii Articles 2014年12月25日
対象集団の特性:健常成人もしくは境界域血糖値の成人
最終的に評価した論文数:43報
研究デザイン:システマティックレビュー(メタアナリシス)
⑤主な結果
採用基準に従い43報のRTC論文が採用された。「食後血糖値30,60分」および「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」の3つの項目において対照群と比較し、難消化性デキストリン摂取群が有意に食後血糖値を低下させることが確認された。
⑥科学的根拠の質
本システマティックレビューでは、「食後血糖値30,60分」および「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」の3つのアウトカムにおいて対照群と比較して有意差が認められた。研究ごとの異質性は、いずれの項目についても認められなかった。
公表バイアスは、Trim & Fill methodにより「食後血糖値(30分)」で7研究、「食後血糖値(60分)」で3研究、「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」で2研究が追加されたが、統合効果は有意のままであった。
また、Fail-Safe Nについては、結果が有意でない未公表の研究が「食後血糖値(30分)」は1,125報、「食後血糖値(60分)」は235報、「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」は221報存在しない限り、有意差が覆ることはないことが明らかになった。以上より、公表バイアスを想定した場合の結果の頑健性が示唆された。
本システマティックレビューより、難消化性デキストリンは食後血糖値の上昇抑制作用を有することが確認された。なお、本研究における難消化性デキストリン(食物繊維)の一回摂取量は4 g~16 gであり、最小摂取量4gの摂取によっても「食後血糖値(30分)」において対照群との有意差が見られ、4.4gの摂取により「食後血糖値(60分)」、「食後血糖値の濃度曲線下面積(AUC0-120min)」においてそれぞれ対照群と比較して有意差が認められた。
摂取量による部分集団解析では、効果量による用量依存性がみられ、低用量群(5 g/回以下の集団)に比較して、高用量群(5 g/回を超える集団)において統合効果量が大きくなっていることが確認された。低用量群においても全ての項目の統合効果量に有意差が認められた。これらのことから、食後血糖値の上昇抑制作用が期待できる推奨一回摂取量は、難消化性デキストリン(食物繊維)5gが適切と考えられる。また、難消化性デキストリン(食物繊維)を少なくとも一回摂取量4gを摂取した場合においても同様に食後血糖値の上昇抑制作用が期待出来るものと考えられる。 (構造化抄録) |